はじめに
退院してすぐの春のことです。
家から歩いてすぐのところに、川沿いの桜並木があります。
毎年きれいに咲く、家族みんなが好きな場所です。
今年は、3人で行けた。
それだけで、特別な春になりました。
抱っこひもで、はじめてのお花見へ
この子はまだ生後数ヶ月。
抱っこひもに包まれて、外の世界を見ていました。
桜並木に近づくと、薄いピンクの花びらが空いっぱいに広がっていました。
川沿いには菜の花も咲いていて、黄色とピンクのコントラストがきれいで。
この子にはまだ、「きれいだね」という言葉は伝わらないかもしれない。
でも、確かにこの景色の中にいた。
それだけで十分でした。
新幹線が通るたびに、そっちを向いた
川沿いを歩いていると、近くに新幹線の線路があります。
しばらく歩いていると、遠くからあの独特の音が聞こえてきました。
ゴォーッ。
その瞬間、この子がそっちを向きました。
音のする方へ、ゆっくりと顔を向けて。
新幹線が目の前を通り過ぎていく。
また音がする。
またそっちを向く。
それを何度も繰り返していました。
桜よりも菜の花よりも、新幹線が気になって仕方がない様子で。
思わず笑ってしまいました。
この子はこの子で、ちゃんと世界を感じていた。
退院してはじめての外出だった
実はこの日、退院してからはじめてのちゃんとしたお出かけでした。
NICUにいた間は、外の世界を知らなかった。
退院してからも、しばらくは外に出ることが不安でした。
チューブをつけたまま外に出ていいのか。
何かあったらどうしよう。
でも、春の空気の中でこの子の顔を見ていたら、
連れてきてよかったと思いました。
病院の外にも、こんなにきれいな世界がある。
この子に見せてあげられてよかった。
おわりに
あの日の桜並木は、今でも鮮明に覚えています。
薄いピンクの花びら。
川沿いの菜の花の黄色。
そして新幹線の音に反応するこの子の横顔。
毎年桜が咲くたびに、あの春のことを思い出します。
来年も、再来年も、この子と一緒に同じ場所に行きたい。
そう思っています。
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